前回のつづき・・・。
私は学生の頃、建築における「場所性」をテーマに論文を書いて学校を出てきました。これについて話し出すと長くなりますし、一般の建主様にはあまり興味のわかない話かも知れないのですが、例えば「シドニーのオペラハウス」という有名な建物を例にとってみます。
シドニー・オペラハウス(例:All About記事)
ヨーン・ウッツォンという建築家による作品ですが、これはヨットの帆や貝殻、重なり合う亀などをモチーフとしてデザインされたとも言われています。実際のモチーフが何であれこの建物は、おそらく間違いなく、「あのようなきれいな海に囲まれた場所に建てられるのにふさわしい建物」を意図して設計されたのであり、それゆえ、あれと同じ建物を例えば山の中で建てても、きっとあそこまできれいだとは感じないだろうと考えられます。このように、建物の良し悪しを感じたり評価する際に、「その建物が建てられる敷地がどのような特性(≒場所性)を持っているか」という要素は、かなりの影響を与えるものと考えられます。これは、当時の指導教授であった石川先生の解説です。欧米で「いいな!」と思った住宅を日本にそのまま建てても、周囲とマッチしないと感じる方も多いであろうことも同じ理由でしょう。建築における「場所性」とは、簡単にいうとこのようなものです。
ちなみに私はその場所性の中で、「アナロジー」という思考パターンを取り上げて研究の対象としました。簡単にいうとメタファーなどのようなもの、つまり「何かをモチーフにする、何かに見立てる」というようなもので、まさにシドニーのオペラハウスなどが好例として挙げられます。余談ですが、設計者の方の中には、創造性がないなとの理由で、こうした設計プロセスに良い印象を持っていない方もたまにおられるようですが、世界的巨匠であるコルビジェがメタファーを多用していることは良く知られていますし、建築は、他の分野からの援用は多いものの、他にはほとんど影響を与えることができてこなかったというのも定説です。また、私の学生時代の先生のひとりは、「人間ねぇ、見たことのない形なんて作れないんだよ、夢にでも出てこない限りは」と言っていました。ホントかどうかはわかりませんが・・・(笑)
それはさておき、このように「高崎の黒い家」でも、うだつや黒漆喰の建物など、日本的な(「日本的」という概念は、安易に使ってはまずいのですが)古建築をイメージしながら、建物ができるだけきれいに見えるプロポーションを探ったり、その他の部分にも援用して全体をまとめて行くようにしました。それは、敷地のコンテクスト(文脈 ≒敷地周辺環境の特徴)の薄そうなあの敷地とはいえ、「黒でモダンでシャープ」などのイメージが、あまりにもあの敷地の周囲から浮き過ぎることを避けるためでした。建主様からは「え”ー、そうだったっけー?」とのリアクションもありそうですが(笑) 設計は言葉ではなく、形で勝負するお仕事ですから、あまりどーのこーの言葉を並べるのはよろしくないだろうとは思うのですが、まあちょっとくらいならとも思いますし、そもそも、こうしたご説明をして、観る方々がそのように感じてくれるかは、設計者の力による部分も大きいだろうとは思うのですが・・・。
このような建物づくりが良いとか悪いとかでもなく、また、私が設計させて頂く全ての建物にこうした方法を使っているわけでもありませんが、たまにはこういうのもと思い記事にしてみました。今、家づくりをなさっているみなさま、設計をして下さっている方は、きっといろんなことを考えているので、うかがってみてはいかがでしょうか。家づくりがさらに楽しく、奥深いものになるのではないかと思います。
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