「建築家 白井晟一 精神と空間」展 3
前回のつづき、そして最後~!
この展覧会をより楽しむために、ごく基本的なところではありますが・・・、
●白井さんが活躍した時代背景をちょっと確認しておく
これは、史跡見学などさまざまなことに共通しますが・・・(コルビジェのサヴォワ邸も、何も知らずに今どきの視点で見ればただの箱ですし(苦笑)) 白井さんが秋ノ宮村役場でメディアに登場したのが1952年(約47歳)頃、学会賞を受賞したのが1968年(約63歳)。前にも触れましたがこの頃は、丹下健三さんがモダニズム(※)で建築界をリードしていた時期です。広島平和記念資料館(1955)、旧香川県庁舎(1958)、代々木体育館(1964)、山梨文化会館(1966)など、次々にモダニズムの作品を発表し、「これからの建築はこうあるべし!」と多くの人が思っていたであろう時期だったことは把握しておくと良いように思います。「このような時期に白井さんのような作品が出て来たら、そりゃあある意味、衝撃的だろう」という気がしそうです。そしてポストモダニズムの代表的な建築家・磯崎新さんが1966年に続き、この群馬県立近代美術館で2度目の学会賞を受賞するのが1975年です。
●手描きの図面やドローイングを見る(特に木造住宅)
これは白井展の案内でもふれられていますが、主に鉛筆を使った手描きの設計図の原図がたくさん展示されています(ドラフトマン=製図をする人が別にいて、白井さんは最後に手を加えるという形が多かったそうですが)。手描きの図面やパースと、CADやCGは、それぞれに長短があるのだろうと思いますが、やはり昔の手描きの方が、その建物や図面に対する気迫が伝わってきます。「図面そのものがひとつの作品」であるとも感じられます。原寸と呼ばれる実寸での詳細図や、本当に細かな部分まで描き込みされている図面が多いです。パースのドローイングもきれいです。
特に一般の方にとっては、木造の住宅の図面が一番なじみやすいかも知れないなと思います。図面の内容や設計の上手下手がわかる必要はなく、例えばご自身の家の設計図としてもらった図面と見比べてみると、この頃の(というか本来的な?)建築の作られ方、設計という仕事とはどういうものなのかが何となくわかって、面白いかもしれないなぁと思います。でも私も含めて今の多くの人にとっては、白井さんの木造住宅の形だけを単に見た場合、キレイとかカッコ良いとは感じないかも・・・(苦笑)
●形や材料をイメージしてみる
これは余談ではありますが、白井さんの作品は、材料やディテールの素晴らしさが、実物を見るとより良くわかるとも言われます。もちろん建築展では実物の展示ができないわけですが、何となくでもイメージしてみたり、そこから発展して実際に見てみようかと思っていただけると良いなぁと思います。
それと形は、特にビル建築は、モダニズム建築とは対照的なものが多いです。それらは正統な批評の中ではあまり言われないようですが、「胎内感覚」、「淫靡」などと表現されることも多いようです。こうした造形は他の作家にもまま見られるものですので、そうした視点で見てみるのも面白いかもしれないです。
近代美術館の隣にある群馬県立歴史博物館は、これまた著名な大高正人さんの設計です。ようやく猛暑も過ぎ去って芸術の秋!そしてこれらの建物の前には大きな芝生広場があって、これからは家族連れなどレジャーにもちょうど良い時期。この展覧会は11/3まで開催されていますので、ぜひお出掛けいただいては?と思います。
今回の展覧会を期に、改めて白井さんに関する文献もいくつかあたってみました。今まで私は白井さんの人気は、それほど多くはない一部の人のものなのかと思っていましたが、いわば一世を風靡したというような時期があったようだということを初めて知りました。
私は生まれが1970年で、建築を学び始めた頃には既に白井さんは他界されていました。思うに、建築の関係者として、白井さんのその「熱狂」の中にいた世代と、それ以降の世代とでは、白井さんのとらえ方もかなり違うのではないかと感じられました。そしておそらくその「熱狂」は、例えば「力道山」のそれのような、その時代であったからこそ存在し得たものなのだろうとも思いました。
また、やはり「人間、社会、将来を背負うという気概」を持った人たちが建築家と呼ばれていたことが改めて思い起こされましたし、この頃の建築批評も、今とは異なる「強さ」があったのだろうと思いました。もうそのような時代ではないのだろうと寂しい気持ちにもなります(それはそれで良い面もたくさんあると思いますが)。そうであっても私も、建築に携わる者として今何をなすべきなのか、ごくたま~~~には考えて行きたいなぁと思いました。そうした意味で今回の白井展は、とてもありがたい機会だったと思います。
※モダニズム建築
簡単に言うと、18世紀のイギリスに始まった産業革命による、社会構造や必要とされる建物の規模の大きな変化と、そして同じく産業革命により生み出された鉄、ガラス、コンクリートなどの材料によって、それまでの様式建築(例えばパリやローマと言って思い起こされる街並みをつくっている建物)を否定して新たに登場した建築様式のこと。「建物に装飾が少ないことは良いことだ」、「形は機能で決まる(例えば飛行機は、カッコよくデザインされたのではなく、飛ばすための効率を追求した結果、あの美しい形になった)」、「世界中どこでも同じ普遍的な建築、機能を限定しない空間が良い(工業技術は、民族や地域の違いによらない普遍的なものだから)」などの考えに基づいています。その後、ポストモダニズムにとって代わられますが、主な材料や、柱梁による大空間や高層建築など、現在作られている建物のベースもこのモダニズム建築だと言って良いと思います。
個人的には、このモダニズム建築の定義を何となくでも知っておけば、まず第一段階として、建築がわかりやすく、鑑賞しやすくなるのではないかと思っています。
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