レーモンド展と高崎哲学堂
今週の日曜に、最終日のレーモンド展(「アントニン&ノエミ・レーモンド展 -建築と暮らしの手作りモダン」)を観に高崎市立美術館ほかに行ってきました。すっかり忘れてしまっていました。最終日ということもあり、結構な人の入りで、建築関係、美術関係者が主だと思いますが、県外からの来場者も多いと受付の職員さんが教えてくれました。
高崎市立美術館、高崎哲学堂、群馬音楽センターの3会場を使い、建築家アントニンレーモンドの作品と、その妻ノミエ・レーモンドが作った家具や絵画などが展示されていました。
アントニン・レーモンドは、チェコ生まれの建築家で、日本における近代建築に少なからず功績を残した人物です。もちろん、群馬音楽センターの設計者としても良く知られています。レーモンドの作品の展覧会は、今までに何度か見ているのでざっと見て、久しぶりに高崎哲学堂へ行ってきました。この展覧会においては、今はなき麻布笄町のレーモンドの自邸を写し取って建て、レーモンドの建築スタイルを踏襲している高崎哲学堂(旧井上邸)も、「レーモンドの実作品を観る」という位置付けで会場になっていたようです。
やっぱり何度見ても、この建物は良いなと思います。当時の近代合理主義の思想を繁栄させ、余分な装飾などのない簡素なつくりでありながらも、しっかりとデザインされています。時間の経過とともにツヤを増しているかのような木部も、とてもしっとりとした雰囲気を醸し出すのに貢献していますし、庭との一体感も心地よいです。
この建物は、井上工業の元会長・井上房一郎氏の自邸として、当時親交の深い建築家の1人であったレーモンドの自邸を井上氏が気に入り、レーモンドの了解の下、ほとんど同じようなつくりでここ高崎西口に建てたものです。のちに井上工業の経営が傾きかけたときに、市に没収され、競売に掛けられましたが、井上氏が晩年取り組んだ「哲学堂運動」の中心であった「高崎哲学堂」が奔走し、落札して今に至っています。高崎駅からすぐ近くの利便性の高い立地ですから、他にも落札したい人はいたわけですが、さまざまな方々のご尽力で、昔ながらの姿をとどめることができているのは、本当に喜ばしいことだと思います。
今から10年以上前になりますが、私も井上工業の社員で、まだこの建物の主がいた頃に、ここに招待して頂いたことがあります。正月の寒い時期の新年会でしたが、暖炉には火がともされて室内はとても暖かく、ぬくもりあふれる空間だったことを良く覚えています。やはり使われている建物には、しっかりとした息遣いが感じられます。他には、ピカソの直筆サイン入りの本が無造作に本棚に積まれていたり、何気なく座っていたイスや置かれていた家具などがノミエの作だったりと、かなりビックリな建物でした。
哲学堂の案内をしていた美術館の職員の方に聞いてみたら、最近は哲学堂の活動も、週末に集まりがたまにあるくらいだとか。哲学堂の事務局をしている(今でも?)熊倉さんは、以前の会社の上司ですので、私も当時、哲学堂の会員になり、講演会の準備の手伝いなどにも借り出されていました。吉本隆明さんとかが来たときは、著作を読んでも結局私にはあまりわからないのですが(笑)、 ミーハー感覚で見ていた記憶があります。
「哲学とは、私たちが、私たちの社会に賢明に生きようとする願望の学問です。高崎哲学堂は、現在の政治や教育の手の届かないことを勉強する高崎の寺子屋です。」
だそうです。私などが言うのも恐れ多いのですが、非常にわかりやすく意義のある活動だと思っています。
ということで、この高崎哲学堂の建物は、普段は公開はしていないそうですが、週末など、哲学堂の関係者の方がいれば、見学できるそうです。家づくりをしようとお考えのみなさんにも、ぜひ一度見て頂きたい建物だと思います。
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